留学生の貧困:無料食料支援から分かったこと

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はじめに

神戸市西区の学園都市は、この名前の通り多くの学生が通う学生の街です。3つの公立大学、2つの私立大学、市立高専、専門学校があります。学生総数は約1万2千人です。そのうち約1000人が留学生です。 私はコロナ禍が広がったころ、学生たちがアルバイトもできず経済的に困窮しているというニュースを聞き、2021年11月から毎月一回、学生に無料食料配布を始めました。以前からつながりのあったNPO:CS神戸:まちづくりスポット神戸との連携プロジェクトです。

この活動を始めて、気がついたことがありました。それは受け取りに来る学生に留学生が多いと言うことです。昨年11月から活動を始めて、毎回約100名の学生が受け取りに来ます。そのうち約半数が留学生です。これは活動開始前には予想してなかったことです。最初に述べたように、学園都市の留学生は約1000人です。学生総数1万2千人のうち12分の1しかいません。それでもたくさんの留学生が食べものをとりに来ると言うことは、留学生が日本人学生に比べて経済的に困窮しているからなのでしょうか?食料へのニーズが高いのでしょうか?

振り返って考えて見ると、私は今まで大学で授業を通して年中、留学生とは接してきましたが、彼らがどんな生活をしているか、バイトや食事をどうしているかあまりよく知らないのです。

この活動を始めてから、毎回、受け取りに来る学生にアンケート調査をしてきました。そこで以下ではアンケート調査から留学生の生活実態を数値化して、日本人学生と比較してみることにしました。

調査の概要

2022年6月と7月に、食料を受け取りに来た学生に食と生活についてのアンケート調査を実施しました。下の表のように留学生はさまざまな国からやってきています。中国とベトナムが一番多いですが、アフリカ、東ヨーロッパ、南アメリカからも来ています。

6月27日実施7月25日実施
日本人学生の回答数49人
57人
留学生の回答数41人
(中国、ベトナム、台湾、香港、
韓国、インドネシア、
ルーマニア、ザンビアなど)
32人
(中国、ベトナム、台湾、
インドネシア、スリランカ、
ブラジル、ジンバブエなど)

提供食料の準備:ボランティア学生が毎回手伝ってくれています

留学生はリピーター率が高い

まずリピーター率を計算してみましょう。何度も取りに来る学生は、それだけ食料に困っていると考えられます。ここでは、今まで9回行った食料配布に4回以上来た学生の比率をリピーター率と呼ぶことにします。

下のグラフのように、留学生は日本人学生の約二倍の割合で4回以上リピートして取りに来ています。それだけこの食料配布に対するニーズが高いことを示しています。留学生は日本人学生に比べて、食べものへの困窮度が高いことが予想できます。以下で実態を探ってみましょう。

リピーター率:9回の食料配布で4回以上、食料を取りに来た学生の比率

食生活 :1日何回食べる?

「今日までの1週間で、だいたい1日に何回食事を食べましたか?」という質問への回答が下の図です。回答を、全国大学生活協同組合連合会による全国の1万人の学生を対象とした調査の回答と比較してみました。生協調査では約半数の学生が「1日3回食べた」と回答しています(自宅外生の回答数)。学園都市で食料を取りに来る学生の中で自宅外生のみを取り出して見ると大きな特徴が見られます。まず日本人学生(52名)は「だいたい3回食べた」46%、「だいたい2回食べた」44%となります。生協全国調査より「2回食べた」とする学生の割合が10%以上高いです。学園都市で食料を受け取りに来る日本人学生は、全国平均より食事回数が少ないのです。

さらに、留学生はもっと食費を抑えています。「2回食べた」とする学生が61%もいます。逆に3回食べたとする学生は29%しかいません。留学生は1日の食事回数を減らしている学生が、日本人学生よりもずっと多いのです。

また、食事を回数を減らしている理由から、深刻な問題が見えてきます。下の図は、1日2回または1日1回しか食べない学生に、「3回食べない理由」を質問した答えです。日本人学生の答えで多いのは「時間がない:44%」「食欲がない:30%」です。しかし、留学生は「お金がない」が39%で最も多い回答です。日本人学生は「お金がない」から食べなかったとする回答は11%のみです。留学生は食事に使うお金にも困窮していることが分かります。

バナナ:フードバンク関西さんからの提供

食生活:食費はどれくらい?

下の図は、一ヶ月の食費(外食費や食料購入費)を聞いた回答を示したものです。留学生も日本人学生も「一万円から2万円未満」という回答が一番多いです。留学生の方がやや金額が高い方に偏っていますが、際だった違いはないと見えます。全国大学生活協同組合連合会による全国の学生1万人を対象とした「第56回学生生活実態調査」によると、2020年の自宅外学生(下宿生)の1ヶ月の食費は2万4千円です。従って、食費は全国平均と余りかわらないと思われます。

仕送り

家族からの毎月の仕送り額の回答が下の表です。まず日本人も留学生も「もらっていない」と回答する学生が多いことが分かります。日本人で37%が仕送りをもらっていません。留学生はさらに多く、50%もの学生が仕送りなしで生活しています。

次に仕送り額を比較してみると、日本人と留学生にはっきりと差があることが分かります。日本人の最も多い仕送り額は「4万円から5万円未満」で16%でした。しかし、留学生を見るともっと少額です。「1万円から2万円未満」が16%で最も多いです。留学生の多くが、仕送りはないか、あってもわずかの仕送りしかない状態で生活していることが分かります。

なお、全国大学生活協同組合連合会による「第56回学生生活実態調査」によると、2020年の仕送り平均額は70,410円です。それと比較してみると、学園都市で食料を受け取りに来る日本人学生もそれに比べるとずっと低い金額と言えるでしょう。仕送りが少なくて経済的に困窮している、あるいは切り詰めて生活している学生が食料を受け取りに来ているといえるでしょう。

毎月の家庭からの仕送り額

お米は日本人にも留学生にも最も人気のある食料:コープ神戸さんからの提供

アルバイトの実態

学生の多くは少ない仕送りを補うためアルバイトをしています。日本人学生の89%、留学生の78%がアルバイトをしています。アルバイトの種類は日本人も留学生も、「スーパー」「飲食店」「ディスカウントストア」などが多いです。留学生の中には大学での「ティーチングアシスタント」「日本語学校講師」など留学生の特性を生かしたアルバイトも散見されます。

アルバイトによる収入への回答が下の図です。留学生は「7万円から8万円未満」とする回答が一番多いですが、日本人も留学生も収入額は少額から高額までちらばっており、大きな差が見られません。大まかに平均額を算出してみると、日本人学生が5万1千円、留学生が4万7800円となりました。

しかし、「アルバイト収入を何に使うか」については下の図のように違いがでています。留学生は「家賃光熱費」「食費」「授業料(大学への納付金)」が多いです。生活そのものに支出していることが分かります。日本人学生は「食費」は多いですが、「家賃光熱費」や「授業料」支出は少ないです。おそらく親が支出しているのだと思われます。代わりに日本人学生は「交友費」が突出して多く、留学生は「交友費」は極めて少額です。「衣服費」や「課外活動費」についても比較すると、日本人学生が留学生より相対的に多い支出が見られます。

結局、留学生は日本人学生なら親が負担する支出も自分で稼いだお金で支出しているので生活に余裕はなく、それに比べて日本人学生は「交友」や「食費」に回せるだけのある程度の余裕があるのだろうと推測できます。

おわりに:留学生の見えない貧困を見える化する必要性

以上にアンケート調査から分かったことを整理しました。もともと無料食料支援を必要とする学生は、一般の学生より食料ニーズが高いと思われます。経済的に困窮しているからこそ食料を受け取りに来ているのです。

毎月、食料支援の実施の2週間前になるとメールやSNSで広報し、受け取り予約をしてもらっています。だいたい1週間で100名の予約は一杯になります。最近はもっと早くて4日ほどで予約が埋まるようになりました。それだけニーズが高いのだと考えています。

今回、留学生と日本人学生を比較してみて、留学生の困窮度は日本人以上に高いことが分かりました。留学生は食費を切り詰め、アルバイト収入から学費や生活費を捻出し、ほんとうにつつましく暮らしているようです。今後も食料支援の継続をしていこうと考えています。

また、こうした調査も継続し、さらに詳細な留学生の生活実態を見える化していこうと思います。留学生の貧困の実態は、留学生たちが声を上げることもないので、日本人には見えないまま放置されていると思われます。ちょうど、最近急速に全国で開設されてきた「子ども食堂」でよく聞く話に似ています。こども食堂をやりはじめたら、地域に食に困窮している子どもや家族がたくさんいることがはじめて分かった、という「見えない貧困」の問題が留学生にもあてはまると思われます。

私がこの活動をはじめてから、いろいろな大学関係者と話す機会がありました。そうすると「留学生は祖国ですごいお金持ちの家からきている」「留学生は日本人よりいい暮らしをしている」といった話しがよく出ます。確かに一部にはそういう留学生もいるかもしれません。けれどもそれは日本人学生でも同じで、一括りにはできない多様な実態が背後にあるけど、それが見えていないのだと思います。留学生の見えない貧困を見える化することが今とても重要と考えています。

智雲ボランタリー活動研究所

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野津隆志

Prof. Takashi Notsu, Ph.D
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研究所について

このサイトでは私が今まで行ってきた日本と海外(主にタイ)でのボランタリー活動についての研究・調査の紹介をしています。タイをフィールドとした教育調査は約30年になりました。

This website introduces my research and studies on voluntary activities I have conducted in Japan and abroad, mainly in Thailand. I have been conducting educational research in Thailand for about 30 years.